病院1日目

 どれくらいたった時か、説明のため医師に呼ばれた。「後頭葉に小さな出血。頭蓋底に小さな骨折。それより問題なのはびまん性脳挫傷。CT像で脳のしわが分かりにくくなっている。瞳孔散大、対光反射なし。大変厳しい状態です。脳死と言ってよい。脳が90%いや100%だめになっているかもしれない。しかし望みは捨てられません。たとえ1%の可能性だとしても。」

 私は全身の力が抜けてしまい立っていられず、私自身が点滴を受けることとなった。なぜこんな事に……車の中ではまだ可能性を信じていたが……希望が墜落した。こんな事って信じられない。夢じゃないのか。夢であって欲しい。この際も、妻は気丈に立ち向かっていた。

 21:00頃だったろうか、いつまでも隠しておくわけにはいかないので、お母さんに連絡しネネちゃんを連れてきてもらう。ネネは状況がつかめず、ピンとこない様子。

 その後、親族が集まり始める。医師より「会わせたい方がいましたら早く呼んであげて下さい」とのこと。どんどん希望の光が見えなくなる。私は点滴台を引きずりながら溢れる涙が止まらない。

 初めてICUに入る事が許される。人工呼吸器など多くの機械につながれて生命を維持している状態。ICUで奈那の手を握り声をかける、「だめだ〜、だめだー奈那ちゃん。だめだ、だめだ、だめだー奈那ちゃん。」手を握り叫び続ける。

その日、すぐにテレビが事故を伝えた。

 高校の同級生が1名、面会に来たが、会わせられる状態ではなかったので、申し訳ないが帰ってもらった。奈那が中学校の時の担任の先生が駆けつけ、そして夜遅くまで病院にとどまってくれた。私の職場の理事長が来てくれた(彼はその後も告別式まで毎日足を運んでくれた)。彼に会った瞬間、私はトイレの前で泣き崩れた。誰かにすがらないと立っていられない。

 妻は特別にICUにとどまることを許されていた。私は看護師に家族控え室に誘導されるが、不安でじっとしていることが出来ない。あてもなく暗い病院の廊下を彷徨う。医師より「今夜が山」といわれる。なんでこんなことになったのか。まさしく信じがたい時間である。