病院3日目

 早朝、最高血圧が30台となった。どんどん下がっていく。事故から私達の思考能力は停止しており、1秒先のことも考えられない。7:00頃だったろうか、再びあの好青年が、「落ち着かないので、学校に行くまでここに居させてください」と訪れた。純粋で優しい学生さんである。どうもお互いに好意を寄せていた様子。

 その後、血圧は測定不能になった。かける声にも悲壮感が漂う。見守るしかできない私達。とうとう脈が下がり始めた。マラソンを走り続けた心臓が耐えられなくなってきているのだ。150−130−100.「もう頑張ってなんか言えない。奈那ちゃんは2日も良く頑張ったよ。だからみんなに会うことが出来た。。。もう苦しまないで欲しい。」
 90−80−70…。「あ〜、もう止められない!!」お昼過ぎ12時17分、脈が70を切ったとき、突然、前触れもなく、奈那ちゃんの心臓はその動きを止めた。モニターの0の数字が赤く点滅した。私は「奈那ちゃん、パパがいつも横にいるから大丈夫だよ」と叫んだ。私が最後に用意していたセリフだった。
 実質2日間の私達の戦いは幕を閉じた。私は心のドアがゆっくりと閉じていくのを感じた。
 医師の確認後、霊安室へ。そこで警察の検死を受け、エンジェルケア。エンジェルケアには妻も参加した。その間も、退院し家に帰った後も、心配した友達が尋ねてきてくれた。

 「奈那ちゃん、やっと家に帰ってきたね。」学校から帰宅中の惨事だったから、家に帰りたかったでしょう。布団に寝かされた奈那ちゃんは少し笑顔を浮かべた感じで、いつもの寝顔のまま幸せそうに眠っている。傷も無く、今にも起き上がりそうで…
 妻はお参りの方に「ほら見て、いつもと同じ顔でしょう。わらってるでしょう。死んでるなんて思えないでしょう」と何度も何度も話していた。

 私は奈那ちゃんの横で気絶するように眠った。